乳頭腫脹 |
disc swelling |
うっ血乳頭 papilledema ∕ choked disc
病 態:
頭蓋内圧(脳圧/脳脊髄圧/髄液圧)の上昇による視神経の軸索流が障害され生じる非炎症性・受動性の乳頭腫脹で,通常両眼性.
髄液を介して視神経を圧迫し,篩状板前部において軸索が腫大する.軟性白斑は cytoid bodyを含む腫脹軸索を示し,出血は軸索間にみられる赤血球である.周囲の毛細血管・小静脈~網膜中心静脈が圧迫されると,拡張・蛇行・透過性亢進・細胞外浮腫と病状が進行する.視神経後半部に浮腫は生じない.
頭蓋内圧亢進に因らない乳頭腫脹は,乳頭浮腫 という.
頭蓋内圧亢進の基準は200mmH2O ? 20mmHg ?
所見・症状: 【 写真で確認 】
乳頭は境界不鮮明で発赤・混濁・腫脹し,硝子体中に隆起する.表面の毛細血管は拡張,網膜静脈は拡張・蛇行し,
静脈拍動
が消失する.初期の浮腫は鼻側から生じ,上下→耳側に拡大する.乳頭境界を越えて周囲へ広がった腫脹は,隣接部網膜を圧排する.圧排された網膜には
“
Mariotte盲点の拡大が認められるのは,乳頭周囲網膜の損傷のためである.漿液性網膜剝離をきたすこともある.乳頭腫脹は軸索輸送が障害されて起こり,陥凹は比較的残る.細胞外浮腫が加わると生理的陥凹を埋め,動静脈の本幹や篩状板は透見できない.
慢性化しない限り,視力・色覚は良好に保たれる.原因が除去されれば,視力予後は良好である.慢性化すれば視神経萎縮におちいり,視力が低下し,不規則な視野障害をのこす.
原 因:
脳腫瘍,頭蓋内出血,特発性頭蓋内圧亢進(良性頭蓋内圧亢進),髄膜炎(梅毒性,結核性,等.
◎OCTでは頭蓋内圧に押されてBruch膜が硝子体側へカーブしている状態が描出される(右組織図 矢印.
前頭葉の腫瘍や蝶形骨髄膜腫で,腫瘍側が視神経萎縮で他側がうっ血乳頭となるものがある(Foster Kennedy症候群).
小児では視交叉近傍の腫瘍(頭蓋咽頭腫,胚細胞腫など)の進展に伴い第3脳室の Monro孔を閉塞しうっ血乳頭をきたすとともに,視交叉部の圧迫性・浸潤性視神経症を生じることがある.小児では「うっ血乳頭(初期)は視力低下をきたさない」という原則はあてはまらない.視力障害を訴える小児では一見 「両眼性の視神経炎」にみえても,必ず頭蓋内占拠性病変を神経放射線学的に除外する.
乳頭浮腫 disc edema
病 態:視神経症(炎症,虚血もあり),高血圧性乳頭浮腫,網膜中心静脈閉塞,ぶどう膜炎,眼窩腫瘍,まれに低眼圧で.ということで,血管病変が主であることがわかる.これらにより,うっ血乳頭と区別するが,組織所見は共通である.
浮腫が前面にある病態では表層毛細血管が反応し,炎症では後毛様動脈系の深部血管が反応する.
なお,病理でいう浮腫とは間質の浮腫性水分を指すことで,軸索の容積増大に原因がある場合では,腫脹とするべしとの意見も多い.視神経乳頭の隆起は,後天性に視神経乳頭が腫脹して隆起する乳頭腫脹(disc swelling)と,先天性に構造上隆起している乳頭隆起(disc elevation)とに分かれる.
偽うっ血乳頭/偽乳頭浮腫 pseudopapilledema
かつては„境界不鮮明“ということで„偽“視神経炎だったが,すっかりOCT画像上での神経線維層„隆起“がポイントになったようだ.
時に,視神経ドルーゼンによる場合がある.
そんな訳で,乳頭隆起を先天性乳頭隆起と後天性乳頭隆起に分けるとかで,腫脹は隆起(disc elevation)に取って代わられようとしている.
眼圧と脳圧
◎
頭蓋内圧に対抗しているのは眼内圧である.そして両者を隔てているのが篩状板 lamina cribrosaである.
ちなみに側臥位での正常な脳圧を 100~150 mmH2O として,坐位での眼圧を 10~20 mmHg として,眼圧≧脳圧とわかる.
脳圧が上がれば眼圧<脳圧となる.同様な圧勾配の変調は眼圧が下がりすぎても発生する(そういう訳で,極端な低眼圧では乳頭浮腫を生じる).
眼圧が上がれば眼圧≫脳圧となる.
【 緑内障の立場で 】
100~150 mmH₂O ≒ 8~11 mmHg ( ≒ 980~1470 Pa(1 mH₂O=9806.65 Paとして)
10~20 mmHg ≒ 136~272 mmH₂O ( ≒ 1333~2666 Pa(1 mHg=101325/0.76 Paとして)